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『Outdoor』 連載バックナンバー | |||
◆ 番外編 マウンテンバイク坊主がゆく〜伊豆大島MTB+メジナ釣り紀行の巻 ◆
あんこ椿に魅せられて 「ひぐちさん、伊豆の大島を自転車で遊びながら釣りをするってのはどうです?」 編集部の佐々木氏からこんな素敵な誘いがあったのが先週のこと。自転車はさておき、大島で釣りってのがいかしてる。勿論僕は二つ返事で。早速、予定をやりくりして、準備に掛かった。 道具や釣り具の用意をしていたらフツフツと釣り欲が沸いてきた。 「よっしゃー、沢山メジナを釣って、前回の敵をとったる」 そう、実はオイラ以前に一度だけ大島に釣りに行ったことがあるのだ。トローリングに挑戦したんだけど、その時も、往復のフェリーからトローリングの船まで酔いっぱなし。最低の旅だったのだ。だから今度こそは・・・えっ?なになに?あれっ?。なんかおかしいじゃない。一瞬顔が青ざめた。いや待てよ、確か飛行機が・・・。すぐに佐々木氏に確認を取ると 「えぇ、行きは竹芝桟橋からフェリーで、帰りは・・・」 体中の血が凍り付き、後の言葉が聞こえない。 「さ、ささきしゃん。一生のお願いだから飛行機にしません?実はオイラ船に弱いんす。」 絞り出すように言うと、 「釣り坊主が何言ってんすかー、それに今行けば、あんこ椿が恋の花を咲かせようと待ってますよ」 この一言に釣られちゃうくらい安っぽい男だった自分を、竹芝桟橋に着いたとき、心底呪った。これから乗る船を見た途端”ウッ”と来たからだ。くそー、北岳バットレスの岩場で凍えながら一睡もせずに朝を迎えたときに比べれば、んなもん屁みてーなもんじゃねーか。オイラは拳に力を入れて薬局で買った酔い止めのアンプルを一気に飲んだ。・・・それも2本。 そのお陰か、佐々木氏やカメラマンの粟生氏とのバカっぱなしで盛り上がったのが良かったのか、朝の5時半に全く酔わずに大島に着いたときはホントうれしかったー。 「ヨッシャー、釣りだー、あんこ椿だー」
さて、組み上がった自転車に乗ってみて、まずそのサドルの高さに驚いた。ママチャリとは大違い。おまけにブレーキの位置が左右逆。ありゃ?ギヤチェンジレバーまで・・・。まさに未体験ゾーン突入のオイラは、一刻も早く慣れなければと、防波堤の上を行ったり来たりした。コイツをうまく乗りこなせないことには、楽しい旅どころじゃないのだ。 やや慣れた頃、あたりも明るくなり、港内で食事をとる。食後のコーヒーを飲みながら地図を開き、ルート確認をしてから、いざ出発。空はあいにく曇天だったけど、気合いを入れてペダルを漕いだ。 走り出して5分ほどで、じっとりと汗ばんできた。ゆったりとした登りが続く。まさにウオーミング・アップと言った感じ。佐々木氏も粟生氏もスイスイ行く。オイラはギヤ・チェンジを間違えたのを悟られないようにヒーヒー言いながらついていった。さらに行くとようやく下りにさしかかってきた。地獄から天国。さわやかな風が実に気持ちいい。(結構、良いジャン)ギヤ・チェンジにも慣れ、いつしか自転車を楽しんでいた。 暫くして眼下に防波堤を見つけた僕は、気になって寄ってみることにした。近くに来ると、左手に見事な地磯があり、正面の波止では釣り人が一人いた。何を釣っているのか興味を持ってみていると、投げで何かを狙ってるようだ。仕掛けを投入してからゆっくりと糸を巻いている。巻き上げられた仕掛けの先端を見ると何か大きなモノが付いている。それが海藻のようにも見えたので、どうやらブダイ釣りのようだ。 ブダイ釣りも面白いけど今回はそれ用のタックルは持ってきてない。あくまでターゲットは40cmオーバーのメジナだ。僕はそそくさと磯に降りてコマセを作り、目指す磯まで近づいてから2、3発打ち込んでみた。メジナがいればすぐに寄ってくるはずだ。目を凝らして見るものの、手のひらくらいの小さな魚が1匹見えただけで、メジナが寄ってる気配はなかった。少し場所を変えてコマセを打ってみたけど結果は同じ。メジナのメの字も見えなかった。潮目が悪いのか水温が低いのか、いずれにしても良い傾向ではない。青モノ用のルアーも用意してきたけど、なんとなく気分じゃないので場所を変えることにして自転車にまたがった。
おまけにそこらじゅうに地磯があり、又、アプローチが簡単と来てるので、釣り好きにはたまらない島だ。オイラ、ここに住んでたら毎日釣りしてんだろうなぁ。そんなことを考え、ボーッと走っていくと、海岸沿いの遊歩道入口へ出た。自転車を降り、簡単な食事をしながら地図を広げた。地図上では山周りの国道ルートと、海岸沿いを行く遊歩道の2ルートがあった。僕らは折角だから海岸沿いの遊歩道を選んで見た。 結果的にこれが大正解。だって、一面に咲き乱れる椿のトンネルあり、大海原が望める大絶景ありで、これだけでも十分楽しめちゃったもんね。そして、さらにそのバリエーション・ルートを自転車で走るっておまけまで付きゃぁ、会場の奥様大拍手だ。マウンテン・バイカーには垂涎のルートだね、きっと。 さて、そんなんで、楽しく進むと程なく大島公園に到着。時計を見ると2時半。公園で遊びたい気持ちをグッとこらえ、このままキャンプ場まで一気に行くことにした。何しろオイラには、大メジナを釣るという大願があるのだ。休まず、ペダルを漕ぐ。そこからはほとんど下りで、15分ほどでキャンプ場入口に付いた。やったのだ。僕は手続きを佐々木氏に任せ、早速、磯の偵察に向かった。 うまいことに、キャンプ場の目の前に小さな波止があり、その先の地磯にサラシを見つけた僕は、ピンと閃いた。ここだっ。潮の速さ、サラシの大きさ、波濤の様子から釣れそうな予感を感じたのだ。すっかり頭の中が釣りモードに切り替わったオイラは、速攻で仕掛けを作り、そーっと磯の先端に近づきコマセを打ってみた。コマセがゆっくりとばらける。すると、ナ、ナント、緑色の水の奥の方にメジナが来ているのが見えるじゃない。普段近視のオイラも、こんな時はアフリカの原住民真っ青の視力になるのだ。 よっしゃー、いけるぜぃ はやる気持ちを抑えて慎重にエサを着けて投入した。眼はウキ一点に注がれる。オモリの負荷が掛かりウキが立った瞬間、スーッと海中に消えた。 「来たっ!!」 ロッドをあおるとググーッという心地よい引きが伝わってきた。感触は間違いなくメジナだ。 あまり大きくはなさそうだけど、最初の1匹だけに慎重に寄せてきた瞬間、こと、ここに及んでようやく一つの失敗に気付いた。それはタモを持ってこなかったことだ。アチャーである。この磯の形態からしてタモが無ければ抜き上げるしかない。しかし、ロッドは1.2号。道イト2号、ハリス1.2号だ。40cm級が来たら果たして保つか・・・。しかし、今更そんなことは言ってられないので、とにかく抜くしかない。僕は波のタイミングを計り、一気に抜き上げた。空中にメジナが舞う。 平らな岩の上に下ろした瞬間、ようやく大きな肩の荷が下りた気がした。一人で勝手気ままに釣るのと違い、背負うプレッシャーがあるときはそれなりにオイラも緊張するのだ。それにしてもエガったー。佐々木氏、粟生氏も大喜びだ。 こうなりゃオイラの独壇場である。コマセをバカバカ効かして入れ食い状態を堪能した。目の前のサラシには型の良いメジナが集まっているのだ。拾うより早いとはこの事だろう。大きいのだけキープして、後は釣っては放しを繰り返した。すっかり、余裕が出たオイラは、この醍醐味を御両名にも味わってもらおうと、ロッドを渡して手ほどきした。最初は慣れない手つきのお二人も、1匹釣るごとに段々慣れて行く。釣れれば楽しいのは誰でも同じ。3人ではしゃぎまくった。 そんな折、粟生氏にすごいヤツが掛かった。ロッドが根元から絞り込まれてる。釣りが初めての氏には無理と判断してオイラがロッドを受け取り、応戦した。実際にロッドを持つとすごい引きだ。イトの出を調整しながらなんとかやり過ごす。おそらくオイラの経験から40cmオーバーなのは確実だ。このままやりとりすれば上げれる自信はあるけど、なんせタモがないのだ。無理に引き抜くとロッドが折れるかもしれない。 しかし、そうするかないのは先刻承知。オイラは勝負に出た。息を思いっきり吸わしてから波に合わせて一気に上げる。すごい重さだ。しかし、ロッドはなんの危なげもなく余裕を見せながら役目を果たしてくれた。上がったメジナにも興奮したけど、このロッドのヤツにも感動した。 さぁ、この夜は釣ったメジナ料理で大宴会となった。とにかく3人でメジナを食いまくった。キムチ鍋に入れて煮込んだり、塩焼きにしたりして、そのおいしさに舌鼓を打った。特に塩焼きのうまさには驚いた。淡泊な白身で、なんとイワナそっくり。アルコールも手伝って、一晩中オイラのホラ貝が鳴り響いたのは言うまでもない。 次の日は半日、自転車で遊んだ。近くのミニ砂漠で、スキーよろしく、MTBで滑降を楽しんだ。いやぁ、実に充実した2日間を過ごせたのだ。東京から1泊2日で、こんな素敵なスポットがあったなんて、日本もまだまだ捨てたモンじゃないよなぁ。感動しつつ帰りのフェリーに乗りながらなんか忘れてる自分に気が付いた。 「あっ、そうだっ。あんこ椿っ。あれっ?ねぇ、佐々木さんっ。あれどうなったのよー、あんこつばきーっ、ねえーっ、恋の花はよーっ」 帰りのフェリーで、ゲロゲロに酔ったのは言うまでもない。 (『Outdoor』 2000年4月号掲載)
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