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 『Outdoor』 連載バックナンバー 
 

 ◆ 第6回 源流行Part.2〜大イワナに挑戦の巻 ◆

釣り坊主  ウー、頭いてーっ。昨夜の深酒が効いて、頭抱えてテントから外へ出ると、佐藤君がすでに起きて夕べの後片づけをしていた。思わず見直したなぁ。

 最初は軽いキャンプのつもりが、思わぬ源流行になってしまい、とんでもない山奥に佐藤君を引っ張り込む結果となり、ちょっぴり佐藤君に後ろめたさを感じていた。

 「おはよー、お疲れしゃん」
 「おはよっす。さぁ師匠、今日もガンガン釣りまくりますぜっ」

 うーん、朝から何とも元気なヤツ。ひょっとしてコヤツは、ふんとはチャキチャキのアウトドア野郎だったりして。しかし、それにしちゃー、昨日の尾根からのアプローチはあまりにお粗末だったし、よくわからんやつである。

 早速、簡単な食事をしてテントをしまい、釣り支度をする。いよいよ釣行2日目の釣り開始である。空は一面の青空だ。

ウソから出た?イワナ

 それにしても、昨日も感じたけど、ここは素晴らしく渓相の良い川である。東北のそれとはちょっと違うけど、一つ一つの淵が大きくて深く掘れている。これはここ数年、川が荒れてないことの証だ。思わず期待感が膨らむ。

 佐藤君が昨日やったポイントをとばしていくと、足下でイワナが走る。かなりの魚影だ。程なくしていいポイントが現れたので、今日はそこからやることにした。

 「よっしゃー、やるか」
 「ヤッホー釣りだー、イワナだー」

 はやる気持ちを抑えてフライをセットしていると、目の前の淵で飛沫があがった。見ると25cmくらいのイワナが2、3匹泳いでいるのが見えた。よく見ると中には尺近いモノもいるではないか。

 興奮したなぁ。だってここのところ黒部にしても、八久和にしてもよっぽど奧に行かなきゃ、こんな光景にお目にかかれないモノ。

 佐藤君もイワナに気が付いたらしく、目で合図してきた。僕も佐藤君を指さして(君がやれ)とサインを送った。嬉しそうにペコッと頭を下げた佐藤君の顔は、もう釣り師のそれになっていた。さぁ、お手並み拝見だ。

 まるで歩伏前進の様に身をかがめて、慎重に淵に接近し、後ろに気を使いながら第一投を振り込んだ。

(うまいっ)

 思わず心の中で叫んだ。後ろにヤブがあるので、ややサイドからのキャストになったが、見事にイワナの50cmほど上流に落とした。こんな状況だと、正確にフライを打たないとイワナを散らしてしまうことになりかねない。それだけにこの一投は、すごく価値があるのだ。

 案の定、フライが着水したと同時に出た。しかも中で一番大きいのがきた。掛けてからのやりとりも、堂に入ったモンだ。上げてみると28cmのきれいなイワナ。ヒレも大きく見事なヤツ。

 「やったなぁ、おい」
 「へへっ、いきなりイイ型がきましたよ」

 余裕の笑いである。憎たらしい反面、ちょっぴり嬉しくもあった。

 次の淵では、今度は僕がアリに似せたフライで25cmのイワナを上げた。これもキャストして一発で来た。魚は濃い上に何の警戒心もなく食ってくる。

 もうこうなりゃフライは何でも良かった。それからは交代で釣り登り、釣ってはリリースの繰り返し。とにかく良く釣れた。お昼の休憩までで尺2本を含めて70匹は釣れただろう。尺2本の内、佐藤君も33cmのイワナを上げていた。その喜びようったらなかった。

 「いやー、釣れましたねー」
 「うん、釣れたなー」
 「さすが師匠のマル秘のポイントだけありますねー」
 「えっ・・・?あーそう、そうなんだよ、なっスゲーだろ。がっはっはー」

 あぶネーあぶネー、すっかり忘れてた。ここはおいらのマル秘のポイントであったのだ。

 それにしても瓢箪から駒、嘘から出たイワナって感じだよなぁ。木曽でイワナが入れ食い、なんていい加減なことを言ったつもりが本当になっちゃうんだモン。ビックリである。なんせここぞというポイントでは必ず出た。まさに入れ食い状態。ホントすごい釣り場である。朝日連峰の源流を彷彿とさせるモノがあった。

 二人とも満足感に満たされながら、おかずのイワナを頬張った。佐藤君にはイワナのはらわたとニンニクを、フキの葉で煮たおかずを作ってやったらバクバク食っていた。

 「これむっちゃ、うまいっすねー」
 「ムフフ、うめーだろ」
 「でもなんかジャリジャリしてますよ」
 「ん?ジャリジャリ?」

 佐藤君が食べているのをよく見ると、ゲゲッ、胃袋の中身が入ったままになってた。ふつうは中身をコギ出すんだけど、うっかり出し忘れていたのがあったみたい。ってことは、コヤツはイワナが食べた、いろーんなムシを食べているっちゅうことに・・・。

 ゲゲッ、そうとは知らず、うまいうまいと食ってるコイツって一体・・・。

 楽しい食事をしていると、近くで鹿が鳴く声がした。いつも今頃子鹿を見かけるので、きっと親子連れが警戒しているのだろう。

 それにしてもここまで大した悪場もなく来れたのは実にラッキーだった。意外と谷自体は深いわりに遡行しやすく、佐藤君もフーフー言いながらもついて来れた。午後はのんびり釣って少し多めにキープし、今晩イワナの塩辛と燻製でも作ることにしよう。

 「午後はキープしようか」
 「おっ、燻製ですか?」
 「うん、塩辛も作ろうかと思うんだけど」
 「いいっすねー、張り切っちゃいますよー」

 30分ほど軽く昼寝をした後、渓流タビを履き直して出発。今度はキープするのでビクを用意した。フライにドライコートをたっぷり塗って釣り再開。

 ガンガン釣って、燻製作っちゃろーのはずだったのに、ナント皮肉にもその後川が段々と狭くなり、型も小さくなってなかなかキープサイズが拾えなくなっちゃった。淵も小さくなってきて、ナチュラル・ドリフトだと魚が出る前にフライが次の淵に落ちてしまい、掛かりが悪くなった。まぁ、こんな時はわざとドラッグを掛けてテンカラのように釣れば良いんだけど、慣れない佐藤君は苦労していた。見てるとイワナがフライに追いつけずに、全部空振ってる。タイミングが合わないのだ。

 「アチャー、またダメっすよー」

 なまじ魚見えるだけに余計イライラしちゃうのだ。いくら本やビデオでフライ・フィッシングを勉強しても、こう言った場面での臨機応変さは、やはり実戦での経験を積まないとダメなんよ、佐藤ちゃん。

 イワナは釣れず、おまけに遡行もだんだん厳しくなり、随所でザイルとボルトを使わざるを得なくなって、もう佐藤君は泣きを入れっぱなし。

 まいったなぁ。悪戦苦闘を繰り返していると、しばらくして5メートルほどの滝に出た。淵もそれまでと違い、深く大きな顔をしている。

 ここは出るな。二人に緊張が走る。 今まで源流を歩いてきた経験で、なんとなくここが魚止めって気がした。

魚止めの主!

 本当は自分でやってみたかったけど、ここまで頑張った佐藤君に任せた。

 「君やって見ろよ」
 「へへっ、いいんすかぁ」
 「うん、ここまで頑張ったから、ご褒美だよ」
 「ごっつあんです」

 それまでバテバテだった佐藤君も元気を取り戻し、やる気復活だ。

 慎重にドライ・コートを塗り直し、ソーっと淵に接近して少し様子をうかがってから振り込んだ。ラインが小さく弧を描いて良いポイントに入った。白いフライが小気味よく浮いている。フライはもちろん佐藤スペシャルだ。流れに乗って、まさにナチュラル・ドリフト状態。息を殺して見つめる。一瞬流れが弱くなったときだ。

 ”スッ”と影が走った。

 来たっ!佐藤君が合わせて見事にヒット。大きな飛沫が上がった。

 デカイッ!合わせたときの反動でチラッと魚体が見えた。相当デカイ。いきなりロッドが絞り込まれてる。

 「し、ししょーっ」

 悲鳴を上げながら、懸命にロッドを立てている。寝かしたらやられるくらい、ヤツは百も承知だ。

 「ラインを出せ、少し遊ばせろ」
 「は、はい・・・分かってます」

 しかし、大物とリールでやりとりするなんて経験はヤツにはない。腰を落として必死に強い引きに耐えてはいるものの、その表情に余裕はなかった。

 「頑張れよ、焦るなっ」

 さぁ、佐藤君と、魚止めの主との戦いが始まった。

 佐藤頑張れ!(Part.3へ続く)

(『Outdoor』 1998年9月号掲載)

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