![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
![]() | ||
---|---|---|---|
『Outdoor』 連載バックナンバー | |||
◆ 第18回 巻き毛に惚れた坊主の巻 ◆
「ウッ、ケチくせーヤツ」 慈悲深いオイラと違い、心のせまいやローである。まっ、幸い僕には竿を集めるなんて趣味はないから良いけどね。 考えて見ればこんだけ釣りが好きでも、僕は竿には全く興味がない。釣れればどうでも良いと思ってる。たまに競馬で当てて、舶来のロッドを買うくらいである。それにオイラには親から頂いた、ありがたーい自前の竿があるのだ。それで十分である(なんのこっちゃ)。 ただし、僕はそこから先には結構こだわってきた。つまり、仕掛けやエサである。小さい頃からネズミとりを改良して、カニかごを作ったり、一升瓶に穴を開けて、中にエサを詰めてウグイを獲ったり、果てはバルサ材を買ってきて、ルアー作りにも挑戦した。出来の善し悪しは別として、そうやって自分で作ったモノで魚をゲットしたときの快感は格別である。オイラの中の狩猟本能が一番くすぐられる瞬間でもあるのだ。 そんな中で、今の僕にとって一番くすぐられるのが、フライだ。と、言っても、海老、カキ、イカ、などとは全く関係がございません。大学時代に出会ったフライ、フィッシングは、その後の僕の釣り人生に大きな影響を与えた。中でも、フライを巻くという行為にドップリとハマってしまったのだ。 オケケを集める男 最初、フライ・フィッシングを覚えたての頃は、フライを巻くなんて技術がなかったので、出来合いのフライを買ってたんだけど、あまりになくすもんだからやんなっちゃった。だって、1個300円もするモノを多い日には10個以上もなくしちゃうんだモン。勿体ないったらありゃしない。ド貧乏学生のオイラには大金である。 でもって、ある日、「これじゃイカン」と一念発起した僕は自分でフライを作るべく釣具店へと行ってみた。しかし、フライ用品のコーナーで見た材料はどれも高いモノばかり。すっかり買う気がそがれた僕は、巻く道具だけ買ってそそくそと帰ってきた。 で、どうしたかというと、オイラはオケケ集め作戦に出たのだ。買うより集めろだ。 一日中、あちこちかけずり回って、養鶏場のニワトリの毛、愛犬ジョンの毛、墓場に来るカラスの毛などが集まった。素晴らしい、やれば出来るのだ。オット、車掃除用の毛バタキも忘れてはならない。 そうして集めたモノを夜、部屋で広げてみたら、なにやら不気味だった。変な匂いまでするじゃない。ゲゲッ、これをフライ発祥の地、イギリスのジェントルマンがみたら・・・。 で、早速、僕はフライを巻いてみた。昔、テンカラをやっていたのが少し役に立ったのか、すぐに一つ出来た。さすがである。思わず手のひらに乗せて、よく見ると、アリャ・・・?。どう見てもこの世のモノには見えなかった。 が、しかーしである。このわけわかんないフライを次の日試したら、ナ、ナ、ナントいきなり釣れちゃった。(ただし、アブラハヤ1匹)世の中分からないモノである。 それ以来、すっかり自分を天才だと思いこんだ僕は、フライに夢中になっちゃった。まっ、本命のヤマメをゲットするまでには大分掛かったけど、んなものは長い宇宙の歴史に比べれば、屁みたいなもんである。オイラ、ちっとも気にしなかったモンね(ウソこけ)。 さて、すっかり巻く楽しみにとりつかれた僕は、例のごとくあれこれとフライを作って試してみた。本に出ている、スタンダードってヤツは、どうも巻く気がしなかった。自分でいろいろやって確かめなきゃ、気が済まないのだ。複雑怪奇なフライを1時間くらい掛けて巻いてみたりした。時には何時間も掛けて一つのフライを巻き上げたこともある。 で、そういったフライが良く釣れるかというとさにあらず。これが全然釣れない。さっぱりである。「シンプル・イズ・ベスト」とは良く言ったもんだよなぁ。ササッと巻いたフライのほうが成績がいいんだモンね。 じゃあ、そればかり巻けばいいじゃないかって言われるけど、その通りです。それはヒジョーに正しい。でも、いいのである。 夜、子供達が寝静まった後、渋いジャズをバックにブランデーをチビチビやりながら、タップリと時間を掛けて渾身の作を巻く。これはこれで又楽しい。シーズン・オフの楽しみの一つでもあるのだ。 ただし、たまにはこのわけ分かんないフライも実を結ぶことがあった。 あるイブニング・ライズで釣れたヤマメの胃の内容物を調べていた時のこと。どのヤマメの胃からも、川虫とも、成虫ともいいがたい変な虫が、大量に出てきたことがあった。気になった僕は家に持ち帰り、それをじっくりと調べてみた。いろんな角度から虫眼鏡で見てみると、どうやらそれは川虫から成虫のカゲロウになる課程の状態らしいことが分かった。 僕はそれとそっくりのフライを作ってみた。かなり苦労したけど、なにぶんこちとら、わけ分かんないものを作るのは得意である。程なく、一つ出来た。早速、次の日、僕は近くの川で試してみた。わくわくドキドキである。しかし、結果は、意外にもさっぱりであった。入れ食いを期待してきたのに一匹も釣れなかった。今度こそと思ったのに・・・。 ところがある時間帯から事態は一変した。あたりが暗くなり、いわゆるイブニング・ライズが始まる頃から、なんと僕のフライに次々とヤマメがヒットしたのだ。驚いたなぁ。注意深く観察すると、水の中で川虫が羽化のために水面に浮き上がってきているのが見えた。川虫から、カゲロウへと変身する瞬間だ。その時の姿こそ、僕のフライそのものであった。ヤマメはこのわずかな無防備の瞬間を知っていて、このときとばかりに集中攻撃をしていたのだ。僕は釣りも忘れて思わず見入っちゃった。自然界の過酷な生存競争を垣間見たのだ。 その日からしばらくの間、僕は入れ食いを堪能した。 「グフフ、これは誰にも言わんとこ」 なにか大発見でもした気分で、密かにほくそ笑んでいたのだ。 そんな浮かれ気分もつかの間、ある釣り雑誌を見ていた僕は、あっと声を上げて叫んじゃった。そこには田代兄弟なる二人が、僕が作ったフライそっくりのフライを紹介していたのだ。しかも、いろんなバリエーションに富んでおり、どれもスッバラシイものであった。 アタタタ、やられた。オイラより、もっとスゲー研究をしてる人がいたのだ。でも、悔しいってより、なんか嬉しくなっちゃった。そういうマニアックな人って、オイラ大好きなのだ。 以来、実に多くのフライを巻いて来た。サーモン用のストリーマーなんてのにもトライした。これはどちらかというと、僕にとっては趣向的にルアーと似ており、フライ・フィッシングの妙味とは違う気がして、なじまなかった。かえって、22番くらいのミッジを巻いてるほうが面白い。小さなフライに細いイトで、春先の反応の鈍いヤマメを引っぱり出したときの快感は格別だ。盛期に10匹釣ったくらいの嬉しさがあるのだ。 そんないろんな味わいがフライにはある。だから20年近くやってきても飽きないんだね。釣れるに越したことはないけど、釣れなくても楽しめちゃう。考えて見れば、いつもお魚が釣れないオイラにはこんな釣りが向いているのかもしれない。まさにボウズでも楽しめってやつだ。 それと、オイラにはフライをしているときにもうひとつの密かな楽しみがる。それは自慢できるということだ。どういうことかというと、釣り場で出会うフライのトーシロをとっつかまえて自慢するのだ。「これオレが巻いたんだゼー」なんて言って近づき、無理矢理フライを見せる。すると、大抵の人は驚く(たぶん、不気味さに・・・)。 これだよなぁ。ゾクゾクしちゃうのだ。 ついさっきも、冒頭で紹介した竹フェチ男が遊びに来たので、ここぞとばかりにフライを見せて自慢してやった。 「ふえー、スゲーなーこれ。ホントにおめーが作ったんか」 案の定、感心しきりであった。ゾクゾクする瞬間だ。 「ガーハハハ、スゲーだろう」 思いっきりふんぞり返っちゃったモンね。 暫くすると、 ひとしきり見入ってたヤツがぽつんと言った。 「これ、くれ」 よく見ると、僕の一番お気に入りのフライじゃない。心の広いオイラは一言叫んだ。 「だ、だれが、オメーなんかに」 お釈迦さんのタメ息が聞こえた。 (『Outdoor』 1999年8月号掲載) |
|||
Copyright© 2000-2013 HIGUCHI Nissei All Rights Reserved. Produced by web-shi TAKESHITA |