樋口 純子　女将挨拶

みなさま、ようこそお越しくださいました。行学院 覚林坊の女将、樋口純子と申します。私は、日蓮宗総本山身延山の地で、550年の歴史をもつ覚林坊に嫁いで30年以上になります。当時は何も知らなかった都会育ちの私が、歴史あるお寺の、それも宿坊の仕事や、学僧たちの生活の世話、その合間に三人の子育てをしてきました。それは裏方の食にまつわる仕事が主ではありましたが、信じられないほどの忙しさでした。しかし、十数年前にふと気が付くと、かつての隆盛は何処へ？と思えてしまうほど、門前町は寂しくなってきました。そこで、賑わい創出のために「おてらんち」や「桜寺栖」などお寺の改革を始めたことが、私の事業のスタートとなりました。

身延山は、本山久遠寺の繁栄と共に、伝統芸術・文化（食文化も含む）・歴史等、当時はあらゆるものが発達し、町ごと日本文化の宝庫のようでした。それが今では少なくなってしまいましたが、お客様には、hidden gemと言っていただけるほど、今なお息づく日本の芸術と文化と歴史の集積地です。私は、自身の子供たちを育んでくれたこの地にとても感謝しております。そしてこの地が、末長く多くの方に愛され、また訪れてくださる方たちに感動や発見を与え続けられることを切に願っています。私の考える現代のツーリズムは、この地にまだ残っている、貴重な資源（技術・作家・ストーリー・建築・食物等）を絶やすことなく継承していく、一つのきっかけになると考えています。

そんな想いで、微力ながらこの地の魅力を精一杯発信してきました。ありがたいことに今では海外のお客様まで当寺院にお越しくださるようになりました。お客様に愛される地になることと同じくらい大切なもう一つの事は、この地で生まれた子供たちが胸を張ってここでスキルを活かし働き続けることができる事だと考えます。その若者たちが、世界中のお客様をおもてなしできて初めて好循環が生まれると信じて活動しています。コロナ禍の2021年、地域唯一の造り酒屋の社長の邸宅を改修し一棟貸しホテル「迎賓館えびす屋」と地域食材にこだわった「農カフェZencho」をオープン。その後は、地域の名産である“あけぼの大豆(GI認証)”を使用した自家製納豆や郷土料理である“ほうとう”のアレンジが文化庁の100年フードに認定されたり、地域の廃棄フルーツをアレンジした商品開発等、食にまつわる魅力造成にも尽力しました。過去の苦労が生きたと実感できました。

さらに地域事業者との連携を深め、地域の魅力を伝えるモニターツアーを年間10回程度催行し、地域一体をプロモーションしたり、楽しんでいただける気風を育て始めています。そんな「地域が一体となってお客様をもてなしたい」という想いが、町全体をホテルと成す「アルベルゴディフューゾ」の認定へと繋がりました。また、これら全体の活動が「総務省ふるさとづくり大賞総務大臣奨励賞」へとつながり、私の活動に勇気と力を与えてくれました。これからも身延山が世界中のガイドブックに載る町になることを夢見て、地域の皆さんと共に身延の地を盛り上げ、かつての日本三大霊山や関東随一の宿坊群“身延”を守り、世界中に布教し続けたいと考えています。わたしたちは、身延山の寺院・宿坊（宗）覚林坊から、Minobuのゼブラ企業　KAKURINBOを目指しています。

覚林坊女将 樋口純子

（株式会社鶴林精舎　代表取締役）